METライブビューイング(Metropolitan Opera Live in HD)今シーズン最後の出し物は、
ジョアキーノ・ロッシーニ(Gioachino Rossini)の『
チェネレントラ』(
La Cenerentola)。童話『シンデレラ』をオペラ化したもの。
といっても、子供向けのオペラではない。妖精のお婆さんとか、カボチャの馬車とか、12時までの時間制限は出てこない(以上はディズニーのアニメ版のお話)。ロッシーニは魔法の要素をなくし、
大人向けの素敵なロマンチックコメディーに仕上げている。3週間でこのオペラを書き上げた時、ロッシーニは弱冠25歳。前年に発表した『
セビリアの理髪師』(
Il Barbiere di Siviglia)が大ヒットし、ノリに乗っていた時期だ。
主人公は
アンジェリーナ(Angelina)。いいところのお嬢さんだったが、寡婦になった母親が
ドン・マニフィコ(Don Magnifico)と再婚したことから、運命が狂ってしまう。落ちぶれた男爵ドン・マニフィコには先妻との娘、
クロリンダ(Clorinda)と
ティスベ(Tisbe)がいる。いずれも高慢で我儘で贅沢好き。ドン・マニフィコはアンジェリーナの母親が亡くなった後、実の娘に贅沢をさせるため、アンジェリーナが受け継いだ遺産を勝手に使い果たした。ソファもボロボロの家に住む男爵はメイドも雇えないらしく、アンジェリーナを召使いとしてこき使い、ボロを着たアンジェリーナを「チェネレントラ」(灰かぶり)と呼んで馬鹿にしている。(暖炉の掃除などで、灰だらけになってしまうのだろうか。)おとなしくて心優しいアンジェリーナは、いつかこの環境から抜け出ることを夢見つつも、黙って耐えている。
一方の
ラミーノ(Ramiro)王子。後継ぎを心配する重病の父王から「すぐ結婚しなければ勘当する」と脅され、しぶしぶ嫁探しをしている。「愛していない相手でも、この際仕方がない」と嘆きながら、宮殿で舞踏会を開き、一番美しい娘と結婚することにした。勿論、「一番美しい」といっても、小作民の娘が玉の輿に乗るわけではなく、貴族や有力者しか対象にならないのだろう。王子の家庭教師を務める哲学者の
アリドーロ(Alidoro)が乞食に身をやつし、家族構成を記録した台帳を頼りに、適齢期の娘がいる家庭をまわって下調べをしている。