2015年7月5日日曜日

映画『チャッピー』(Chappie) 心を持つロボットの物語

『チャッピー』Chappie

監督
ニール・ブロムカンプ(Neill Blomkamp)

主演
 デヴ・パテル(Dev Patel)
シャールト・コプリー(Sharlto Copley)

2015年 アメリカ合衆国作品







ジョハネスバーグ生まれの映画監督、ニール・ブロムカンプ(Neill Blomkamp)は、20代後半で初めて手がけた長編映画『第9地区』(District 9)が米アカデミー賞の最優秀作品賞候補になるという、映画監督としては幸運なスタートを切った。

『第9地区』はジョハネスバーグを舞台にしたSF大作。南アフリカを舞台としたハリウッド映画は、主人公が南ア人でもアメリカ人やイギリス人の役者が主演と相場が決まっているのに、敢えて南アフリカ人の俳優を主役・脇役に起用したことに好感を持った。尤も、3千万ドル(推定)というSF大作にしては控え目な予算では、ハリウッドの大スターは雇えなかったのかもしれないが。(因みに、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(STAR WARS EPISODE III: Revenge of the Sith)の推定予算は1億1300万ドル。)

「南ア人にしかわからないのでは?」「ジョハネスバーグ居住者しか通じないのでは?」というインサイドジョークが満載だったため、南ア国外で受けるかどうかちょっと心配したが、普遍的な娯楽性が受け入れられたようで、『第9地区』は世界中でヒットした。

デヴ・パテル(IMDb
ニー ル・ブロムカンプの監督第3作『チャッピー』(Chappie)は、再びジョハネスバーグが舞台。犯罪が手に負えなくなったジョハネスバーグに、南ア政府は ロボット警察を導入する。ロボット警察官を開発したのはインド系イギリス人のディオン・ウィルソン(演じるのは『スラムドッグ$ミリオネア』 (Slumdog Millionaire)のデヴ・パテル(Dev Patel))。ディオンが開発に取り組んでいる、感情や意見を持つロボットのプロトタイプがチャッピーである。

名前の知れた俳優を使った集客目当ての配役としか考えられないデヴ・パテル、悪役のヒュー・ジャクソン(Hugh Jackson)、ディオンのボス役のシゴニー・ウィーバー(Sigourney Weaver)の3人以外は、南アの役者を用いている。

チャ ッピー役は、『第9地区』で人の良いアフリカーナ公務員を演じたシャールト・コプリー(Sharlto Copley)。『マレフィセント』(Maleficent)でアンジェリーナ・ジョリーを裏切った王様を演じた時は、『第9地区』の役作りと違い過ぎて気が付かなかったほどだが、今回はロボットだからもっとわからない。

シャールト・コプリー(IMDb
図らならずもチャッピーの「両親」となるチンピラカップルは、南アバンド「ディー・アントヴアルト」(Die Antwoord)のニンジャ(Ninja)とヨランディ・フィッサー(Yo-Landi Vi$$er)。ディー・アントヴアルトの曲が作中で使われている。ニンジャを脅すギャングのボス役は、シャールト・コプリー同様、ブロムカンプ作品の常連ブランドン・オレット(Brandon Auret)。

南アフリカでは、ニンジャとヨランディの演技が話にもならないくらいクソヘタ だとか、ニンジャとオレットが撮影中犬猿の仲だったとか、チャッピーは何故ケープタウンのカラードの発音をするんだとか、どうでもいいじゃん的なことが専ら話題になった。世界的には批評家に酷評された。だが、IMDb(Internet Movie Database)の視聴者レートは7.0とまあまあ。大いに楽しみ、手に汗握り、笑いこけ、そして涙を流した私は8点をつけた。

ニン ジャとヨランディの素人っぽい演技は好感が持てたし、ストーリーも深くてヒネリが効いている。パンクのヨランディがロボットのチャッピーを自分の赤ん坊のように慈しむ姿に、実生活で幼児の母親であるヨランディを重ね合わせた(ニンジャとヨランディは実生活で夫婦)。幼い子供のような純真で無防備なチャッピーが人間に苛められるシーンは、人種差別や弱い立場にあるマイノリティの弾圧を彷彿とさせ、心をかきむしられた。後半は「意識」とは何であるかを考えさせられた。

予告編はこちら。



ディー・アントヴアルトの大ヒット曲「エンター・ザ・ニンジャ」の「チャッピー」バージョンはこちら。



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